昼過ぎ、誰かが置いていった言葉が机の上に残っていた。 「三日で来なくなったらしい」。 笑いともため息ともつかない声の中で、上品な切り返しのようなものがいくつか往復する。 責めない形をとりながら、責める方向に傾く。 角を落とした言い方が、角を増やしていく。

会話の温度差」が、湯気のように漂っている。 熱い側は、規則や継続の話をする。 冷たい側は、沈黙のまま頷く。 感情を出さない人の頷きは、肯定にも否定にも見える。どちらにも使える形をしている。

「度胸があるよな」と誰かが言う。 別の誰かが、上品な切り返しで「合ってなかったんでしょうね」と返す。 「意味は少しだけずれ」て、同じ場所に落ちる。ずれた分だけ、柔らかくなる。 柔らかさは、触れたときに形を変える。

退職代行という単語は、手触りのない道具のように語られる。 触れていないのに、使い方だけが共有されている。 そこにあるのは、方法よりも距離の測り方の話に見える。 どこまで近づいて、どこで離れるか。 その境目に、上品な切り返しが置かれている。

感情を出さない人が、窓の外を見る。 何も言わないまま、会話の流れから少し外れる。 外れた位置からでも、言葉は届くらしい。 届いた言葉は、元の形を保たない。届く途中で、別の意味を拾ってくる。

「最善だったんだろうね」と、遅れて誰かが言う。 その声は、さっきの上品な切り返しと同じ場所に置かれる。 違うのは、音の高さだけで、重さは似ている。 似ている重さが並ぶと、どちらが先か分からなくなる。

机の上の言葉は、まだそこにある。 誰のものでもない形で残っている。 触れられないまま、会話だけが通り過ぎていく。 通り過ぎたあとに、少しだけ静けさが残る。 静けさは、何かが終わったというより、何かがずれたあとの隙間のように見える。