空の予定表を見失う
2026.06.11 (木)
窓の外の空は、朝から同じ色をしていた。 灰色というには少し明るく、白というには少し濁っている。 雲は一枚の布のように広がっていて、切れ目が見当たらなかった。 初は厚い雲が蓋をしているのだと思った。空にも閉店作業があるのかもしれない。 今日はもう光を出さない、と決めた担当者がいるように見えた。
たぶん違う。 空は担当制ではない。ただ、そう見えただけだった。 窓際に置いた椅子から、外の電線を見る。細い黒い線に雨粒が並んでいる。 5秒くらい眺めていると、雨粒が落ちる順番が決まっているように見えた。
右から落ちて、次に左。その間隔を空が計っているようにも思えた。 時計を見ると11時23分だった。
空が時間を管理しているのではなく、こちらが勝手に空へ予定表を渡していたらしい。 友達と、その母親と話していた時も、窓の向こうの空が少し気になった。 会話の途中で笑い声があり、机の上ではコップの水が少し揺れた。 その横で空は変わらず灰色だった。
雨が3日続くと、洗濯物が増える。 部屋の隅には乾かない服が重なり、買い物袋はまだ玄関に置かれたままになる。 外へ出る理由を探しているのに、雨音が先に理由を消していく。
窓を少し開けると、道路を走る車の音が濡れた地面で低く響いた。 いつものタイヤ音より少し丸い音だった。空が音まで包んでいるように見えた。
そこで、雨の日は人間を元の速度へ戻す仕組みなのかもしれないと思った。 洗濯機も、冷蔵庫も、宅配サービスも、晴れの日の生活に合わせて作られている。 だから空が数日止まると、生活の歯車に小さな引っ掛かりができる。 そんなことを考えたが、途中で何を考えていたのか分からなくなった。
空について考えていたはずなのに、牛乳の残量を思い出していた。 冷蔵庫の中を確認すると、残りは少なかった。たぶん明日でもいい。ただ、明日でもいい理由を探す作業も少し面倒だった。 外を見る。
まだ空は同じだった。 さっきまで空が生活に摩擦を与えていると思っていたが、もしかすると、ただ雨を降らせているだけなのかもしれない。 それでも、洗濯物は乾かない。
空を見上げても返事はない。返事がないものに予定を聞いていたのだから、少し間違えていたのかもしれない。 窓を閉めた。 机の上には、買い物に行くために置いたままの小さな布袋があった。
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