空を見ていた。 正確には、友達とその母親が話している横で、窓の外にある空の色を見ていた。 午後の平日だった。窓の向こうは薄い灰色で、雲は一枚の布を少しずつ伸ばしたように広がっていた。青い部分はほとんどなかった。たぶん天気予報では「曇り」と表示される空だったのだと思う。ただ、空は自分で曇りを名乗っているわけではない。

最初は、会話に入るタイミングを探しているつもりだった。 友達と母親の会話には、見えない線が何本か引かれていた。 言葉と言葉の間に、説明されていない前提が置かれている。

昨日のことを今日の続きとして話しているような感じだった。 「それ、前にも言ってたね」 そんな「短い言葉だけで、二人の中では何かが繋がって」いた。

自分は空を見ながら、少し勘違いしていた。 二人は特別な会話をしているのだと思った。長い時間を共有した人だけが使える、暗号みたいなものだと思った。 でも、窓の外の雲を見ると少し違う気もした。

雲は形を決めているように見えて、数分後には別の形になっていた。 右側にあった薄い雲はいつの間にか途切れていた。 空は何かを説明しているようで、特に何も説明していなかった。 会話も似ているのかもしれない、と少し読んだ。

友達の母親が話したことに対して、友達は少しずれた返事をしていた。 質問への答えではないように聞こえた。

昔なら、答えになっていないと思ったかもしれない。新卒の頃に聞いた「結論から話す」という言葉を思い出した。 あれは仕事の場では便利だった。迷子になった文章を救出するための標識みたいなものだった。 ただ、その標識を家の中まで持ち込むと、少し景色が変わる。

空に向かって「結論を出せ」と言っても、たぶん雲は困る。 いや、困っているのかどうかも分からない。 「自分が勝手に雲へ事情を追加しているだけ」かもしれない。

会話も、自分が勝手に整理しようとしていただけなのかもしれない。 そう思ったところで、また少し疑った。

空と会話を同じに扱うのは、さすがに雑すぎる気もする。空には返事がない。人間には返事がある。そこを一緒にするのは、少し乱暴な読み方だ。 窓の端に残った雲は、まだゆっくり動いていた。 夕方になる前の薄い光が建物の壁に反射して、白かった空が少しだけ青く見えた。