試食台の葉
2026.06.12 (金)
店先の植物を見ていた。 入口の脇に置かれた鉢植えで、葉は十数枚ほどあった。 濃い緑の葉が左右に広がり、そのうち一枚だけが少し黄色くなっている。 鉢は白く、床の灰色のタイルの上に置かれていた。
その前を通る人は誰も植物を見ていなかった。 たぶん見ているのだろうが、見ていないことになっていた。 葉は増えすぎていなかった。枝も少ない。 「全体の形が一度決められて」、その後もだいたい同じ方針で生きているように見えた。
平日、友達とその母親と話したことを思い出した。 会話の内容は覚えていない部分が多いのに、机の上のコップだけ残っている。 透明なコップが三つ並んでいて、水の量が全部違った。たぶん偶然だと思う。 植物の葉も大きさが少しずつ違う。
同じものを作ろうとしているのに揃わないのか、揃えようとしていないのか、そのあたりは聞いていない。 少し読んでみる。
ミュージックステーションは試食コーナーに似ている気がする。 この葉も試食に見えた。 一枚だけ切り取って「どうですか」と差し出されている感じがある。
新しい味、新しい色、新しい何か。 試してみませんか、と言われている。 「街に出るとそういうものが多い」。
赤い看板の隣に青い看板があり、その隣に黄色がある。 文字も多い。音も多い。歩いているだけで次々と試食を渡される。
こちらは頼んでいないのだが、向こうはかなり積極的である。 植物は違う。 葉は葉のまま置かれている。 試してくれとも言わない。
そこで少し勘違いした。 葉が少ないから落ち着くのだと思った。
だが本当は違うかもしれない。 少ないのではなく、同じ方向を向いているだけかもしれない。 数が多くても統一されていれば平気なのではないか。
いや、それも怪しい。 森は葉だらけだが、少し疲れる日もある。 森に失礼なので撤回する。
たぶん疲れるのは森ではなくこちらの担当部署の問題だ。 部署名は知らない。
植物を見る。 黄色くなった葉が風で少し動いた。 右に二センチくらい。 戻って一センチ。
また戻る。 規則がありそうで、よく見るとない。 さっきまで納得しかけていた話も似ていた。 要素が少ないから心地いい。
そう思ったが、葉は十数枚ある。 数えると意外と多い。
では何が違うのか。 色なのか。
配置なのか。 それともこちらが勝手に試食台を閉店させているだけなのか。 友達の母親が話していた内容を思い出そうとしたが、代わりに葉の黄色い部分だけが浮かんだ。
あの葉は最初から黄色だった気もする。 途中で変わった気もする。 どちらでもよかった。
風がもう一度だけ葉を動かして、白い鉢の縁に小さな影が重なった。 その重なり方を見ていたら、さっき考えていたことの続きを忘れてしまい、そのまま少しだけ見ていた。
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