晴れた朝だった。たまたま座席が空いていて、そのまま腰を下ろした。 電車はまだ少し余裕があって、ドアの近くには立っている人が数人いるくらいだった。

目の前に立った女性が、デパートの地下にある洋菓子店の紙袋を持っていた。 落ち着いた色で、店名は半分ほど腕に隠れている。 袋の角だけが白く擦れていた。四つある角のうち二つが白い。 底も少し柔らかくなっている。

電車が継ぎ目を通るたび、ゴトン、と床が鳴る。 そのたびに紙袋がわずかに揺れ、持ち手がきゅっと鳴いた。 紙の音は小さいのに、不思議と聞こえる。 新品の紙袋なら、もう少し張りのある音だった気がする。

角の擦れ方を見ていると、この袋は三回目くらいの出番ではないかと思えてきた。 一回目はもちろんケーキだろう。 箱がぴったり収まるように作られている袋だから、その仕事はちゃんと果たしたはずだ。

二回目は何だったのだろう。 書類かもしれない。いや、 紙袋の底が少し沈んでいるから、もう少し重いものだった気もする。

今日は三回目だ。

ビジネスカジュアルの服装だから、昼の弁当を入れているのではないかと勝手に考えた。 コンビニ袋より丈夫だし、中身も見えない。理屈はある。

ただ、弁当にしては少し袋が大きい。

水筒まで入っているのかもしれない。

いや、水筒なら角はこんな擦れ方をしない気もする。

ゴトン。

また紙袋が少し揺れる。

私はその揺れに合わせて、「中身まで揺れている様子」を勝手に想像している。

ずいぶん迷惑な乗客だと思う。 他人の荷物を見て、中身ではなく履歴を考えている。 防犯カメラより役に立たない観察だ。

それでも紙袋は履歴を隠すのが少し下手だ。

白くなった角も、持ち手のゆるみも、横に一本だけ入った浅いしわも、 「何かを運んだことがあります」と「紙のほうから勝手にしゃべって」しまっている。

もちろん全部勘違いかもしれない。 角は最初の日から擦れていたのかもしれないし、しわも店員が渡すときについたものかもしれない。

それなら三回目ではなく、一回目だ。

一回目でも別に困らない。

少し残念なだけだ。

私は三回目くらいがいちばん好きだったらしい。 新品でもなく、引退前でもない、中途半端な回数だ。 その中途半端さに理由をつけて眺めていただけで、紙袋は最初から何も話していなかったのかもしれない。

電車が次の駅へ近づくと、ブレーキの低い音が床から伝わってきた。 女性は紙袋を持ち直した。白くなった角が一瞬だけこちらを向いて、それから人の流れの中へ隠れてしまった。 私はまだ弁当の可能性を捨てきれなかったが、その担当はたぶん私ではない。