一晩で遊び終えたゲームと鉢植え
2026.08.01 (土)
友人の部屋には、小さな鉢植えがひとつ置いてあった。 テレビの横、ゲーム機より少し高い棚の上だったと思う。 葉は四、五枚しかなく、どれも部屋の照明に向かって少しだけ傾いていた。 窓は閉まっていて、カーテンも半分しか開いていなかったから、光を探しているというより、部屋の都合に合わせて育った姿勢なのかもしれない。
その夜は「新作ゲームの発売日」だった。 店で買って、そのまま友人の家へ行き、夕飯を済ませてから箱を開けた。 ディスクがケースから外れる音だけ妙に覚えている。
ゲームが始まると、鉢植えは画面の横に置かれた飾りになった。 時々ロード画面で視線が外れるたび、葉の角度だけ確認していた気がする。 さっきと同じ向きだったので安心した。 植物はそういうものだった。
コントローラーは何時間も手を離さなかった。 時計は一時を過ぎ、三時を過ぎ、外が少し青くなってもまだ続いていた。 鉢植えだけは夜なのか朝なのかを区別していないように見えた。 いや、本当は少し動いていたのかもしれない。 こちらが動かなすぎて、植物まで止まって見えただけかもしれない。
朝になってエンディングを見た。 達成率は百パーセントではなかったと思うが、終わったことにはした。 ゲームには続きが残っていても、人間の眠気は待ってくれない部署らしい。
その足で中古店へ向かった。 開店して間もない店内には新作コーナーができていて、自分が持ってきたゲームもその列へ戻っていった。 棚に並ぶまで数分しかかからない。鉢植えの植え替えよりずっと手際がいい。
買った金額との差は数百円だった。 その数字を見たとき、ゲームを遊んだというより、仕組みの隙間を通り抜けた気がした。 メーカーが考えていた遊び方ではなかったはずだ、と勝手に納得した。 発売日に徹夜で終わらせて昼には売る人は、説明書にも書かれていない。
ただ、その納得も少し怪しい。 ゲームをうまく攻略したのではなく、自分の睡眠時間を安売りしただけだった可能性もある。 内容を思い返そうとしても、最後のボスより、眠気でふらついた帰り道の信号のほうが先に浮かぶ。 あれだけ急いで遊び切ったのに、覚えているのは遊び方ばかりだった。
そう考えかけて、あの部屋の鉢植えを思い出す。 「あの葉は今も少し傾いたまま」なのだろうか。 それとも何度も新しい光を見つけて、もう別の向きを向いているのだろうか。 ゲームの続編は調べれば分かるが、鉢植えの続きは、たぶん誰も記録していない。