腕時計を見る。13時4分だった。

秒針は朝と同じ速さで動いている。 それなのに、ガラスの縁だけ妙に白く光って見えた。 太陽が高いせいだろう。 理由はたぶんそれだけなのだが、その「それだけ」が朝とはずいぶん違う。

歩道脇の植え込みは少し乾いていて、葉の影は短い。 横断歩道の白線は強い日差しを返し、信号機の電子音はいつもと同じ間隔で鳴っている。 コンビニから出てきた人は缶コーヒーを片手にゆっくり歩き、自転車の後ろかごではペットボトルが一本だけ転がって、軽い音を立てた。

また時計を見る。13時6分。 毎朝歩いている道なのに、初めて来た場所ほどではないが、少しだけ他人行儀だった。

すれ違う人の顔ぶれが違う。 犬を散歩させる人がいて、スーパーの袋を提げた人がいて、作業服の袖を肘までまくった人がいる。 朝なら急ぎ足で通り過ぎる場所なのに、今日は誰も少しだけ時間を余らせて歩いているように見えた。

腕時計は同じ時刻を刻んでいるはずなのに、街のほうが別の時刻を持っているようだった。

以前、休日の昼にこの道を歩いたことを思い出した。 あのときも似た違和感があった。よく知っている場所なのに、「まだ見ていない面」が残っていた。 長く付き合っている相手が、ある日ふと見せた癖を見つけるような、小さな発見だった気もする。

そんな大げさな話ではない、と反論しかける。

午後に歩いただけだ。 光が違い、人が違い、自分が違う時間にここへ来ただけ。 それ以上でもそれ以下でもない。

そう言い聞かせながら時計を見る。 13時12分。 数字は正確そうな顔をしているが、影の長さのほうが現在時刻らしく見える。 腕時計は時間だけを担当していて、午後らしさまでは管轄していないのかもしれない。

この町が少し好きになった、という書き方もできる。 できるのだが、不動産屋の薄いポエムの隣に載りそうなので、一度やめておく。

それでも、「朝には見えなかった影の位置」だけは、そのまま残っていた。

暑さのせいだったのかもしれない、と考える。 便利な説明なので採用しようかと思ったが、今日は時計のせいにしておく。 あれが昼の数字ばかり見せるから、街まで少し違って見えたのだろう。

たぶん違う。 違うのなら、この時計は午後だけ少し張り切っているのだろうか。