殻は二つ。片方は白い光を反射していて、もう片方は少しだけ土埃をかぶっている。距離は7〜8メートル。 ちょうど車線をまたぐように分かれているのが妙に律儀で、「誰かが意図して配置したみたい」に見える。 見えるだけで、根拠はない。

風が抜けるたびに、軽いプラスチック音がする。 カサ、と言い切るには乾きすぎていて、パキ、と言うには柔らかい。音が中途半端で、だから記憶に残るタイプの音になっている。

信号機は青の点滅に入る直前で止まっている。 横断歩道の白線が少し削れていて、その上に影が薄く重なる。 通り過ぎる自転車のチェーン音が一瞬だけ混ざり、また消える。

400円という手書きの文字を思い出す。 筆圧の濃淡があった。 0の丸が少し歪んでいた気がする。 あれは貼り紙だったのか、袋に直接書かれていたのか曖昧で、曖昧なまま残っている。

殻の内側には油の膜がうっすら残っている。 光の角度でだけ見える。 匂いはもうほとんどないのに、その膜だけが食べ物だった時間を主張している。

通勤中の誰かが買ったのだと思う。 朝の時間帯、駅前の安い惣菜屋。 財布の中の小銭を数えて、足りるから選ばれた400円。 そういう計算の形だけが、なぜかやけに具体的に浮かぶ。

ただ、箸の跡が均一すぎる。 急いで食べた形ではなく、途中で一度止めたような整い方をしている。 そこで少しだけ勘違いする。 持ち帰られた後に空になったのではないか、と。

その勘違いを置いたまま、風がもう一度通る。殻は動かないのに、音だけが遅れてついてくる。 0.3秒くらいずれている感じがする。 測ってはいない。

納得は一度だけ成立する。 誰かが普通に食べた、それだけの話だと。

次の瞬間、その納得が弱くなる。 置かれた位置があまりに分離しすぎている。 「偶然にしては整いすぎて」いる。

青信号が切り替わる音がして、車が動き出す。 殻はそのまま残る。 どちらも拾われない。 風だけが少しだけ向きを変え、アスファルトの上をなぞる。