昼食を終えて席を立つ前、窓際に置かれた小さな鉢植えが目に入った。 葉は細長く、縁が少しだけ波打っている。 名札は刺さっていないが、たぶんミントだった。 そういう顔をしている。 違う植物かもしれないが、その訂正は所有者の仕事なので、こちらは保留にした。

葉は五、六枚ほどが上を向き、「新しく出たものだけ少し明るい緑色」だった。 土の表面は乾いていて、小さな白い粒が二つ見える。 肥料なのか石なのかは分からない。 窓ガラスの向こうは曇り空で、輪郭だけが柔らかく映っていた。

鼻風邪を引いている。

熱はない。 体も普通に動く。 ただ鼻だけが仕事を放棄していて、世界から匂いだけが抜き取られている。 昼ご飯も食べた。噛む回数は昨日と変わらなかったはずだが、途中から作業になった。 味は残っているのに、何か一人だけ遅刻している感じがする。

鉢植えの葉を見ていると、子供の頃に祖母の家でミントをちぎったことを思い出した。 指でこすると強い匂いがして、手を洗っても夕方まで残っていた記憶がある。 あれは葉よりも記憶のほうが長持ちしていたのかもしれない。

そう思って、今の葉にも少し近づいた。

何も来なかった。

来ていないのか、来ているのに受け取れていないのか、その区別は鼻の担当部署しか知らないらしい。

葉は相変わらず何も変えずにそこにある。 こちらだけが受信機を壊しているようにも見えるし、植物のほうが急に無口になったようにも見える。 後者のほうが少し面白いので、一瞬だけ採用した。

けれど、たぶん違う。

植物が急に匂いをやめる理由は思いつかない。

では鼻が悪いのかというと、それも少し腹立たしい。 鼻だけに責任を押しつけるのも公平ではない。 空気の運び方に問題があるのかもしれないし、曇り空だから匂いも少し休んでいるのかもしれない。 そんな制度は聞いたことがないが、聞いたことがない制度は意外と世の中に残っている。

昨日の夕飯は、おそらく美味しかった。

その推測だけが残っていて、証拠はどこにも見当たらない。 チョコレートも今日食べれば甘ったるい何かになるだろう。 格下げというより、肩書きを失っただけなのかもしれない。 本人は何も変わっていないのに、名札だけ外れてしまったようなものだ。

そう考えてから、「また鉢植えを見る」。

葉は少しだけ風で揺れたように見えたが、窓は閉まっていた。 見間違いだったのだろう。 訂正してもよかったが、そのままにしておいた。

新しく出た一枚だけが、少し明るい緑のままだった。