朝の日差しが強かった。 店の入口の自動ドアが開くたびに、床へ細長い影が伸びたり縮んだりしていた。 その影は店の奥までは届かず、飲み物売り場の手前で止まっている。 冷蔵ケースだけは、外の天気と相談する気がないらしい。

ブラックコーヒーが三種類並んでいた。 缶が一本。ペットボトルが一本。少し背の高いボトル缶が一本。

どれも黒が多いラベルで、白い文字が乗っている。 値札を見ると十円か二十円くらいしか違わない。 冷気で少し曇った透明な棚の奥に、同じ向きを向いて立っていた。

その前へ立つと、自分の影が床に落ちる。

影だけが三本の前まで伸びていた。 どれでもいい気がした。どれでもよくない気もした。 選べるというより、選ぶ担当になってしまった感じがある。

そういえば昔はブラックコーヒーは一種類くらいしか見なかった気がする。 苦い飲み物として一括りだった。 それがいつの間にか、「深煎り」「キレ」「香り」「微糖ではないブラック」みたいな説明が増えた。 「苦さにも部署ができた」らしい。

影は相変わらず三本の前にある。

影は色を区別しない。 缶でもペットボトルでも同じ黒になる。 もしかすると影は、人間が増やした選択肢を少し雑に扱っているのかもしれない。

たぶん違う。 影にはそんな仕事は割り振られていない。 それでも、黒いラベルの前へ黒い影が重なると、全部同じ商品に見えてくる瞬間があった。

選択肢は増えると個性が出ると思っていたが、並び方によっては逆なのかもしれない。

似たものを三つ並べると、違いより同じところが先に見える。

いや、それも違う気がする。

違いを見つける気が最初からなかった」だけだ。

朝だし。 会社へ向かう途中だし。 そこまでコーヒーに人生を預けていない。

そんな言い訳を頭の中で作ってから、別に誰にも責められていないことに気づく。 どうでもいいので、一番手前を取ろうとした。 途中で手を止めた。

「手前だから」という理由は、選んだことになるのだろうかと少しだけ思ったからだ。

だから二番目を見た。 三番目も見た。

結局、最初に見た一本を持った。 抵抗になっていない抵抗だった。

レジへ向かう途中、冷蔵ケースのガラスに自分の影が細く映っていた。 外の朝日と店の蛍光灯の間で、影だけが少し曖昧になっている。

あれは光が多いから薄く見えたのか、それとも選択肢が多いから薄く見えたのか。